TPP考察サイト

TPP(環太平洋パートナーシップ)についての情報まとめと考察サイト

今後日本はどうすべきか

 EUとのEPA交渉が進行する一方で、足踏み状態が続くTPPだが、「やっぱりアメリカが」とか「今後アメリカが」とか気にせず、まとまる11ヶ国でも10ヶ国でも進めてみればいいじゃないか、と思うのだが。トランプ自身はTPPイレブンに対してそう強い抵抗は示していないわけだし。(それどころではない、という事情もあるようだが)。EUとの経済連携協定EPA)の大枠合意も後押し材料になるだろう。

 もちろん、国内の生産業者の懸念は理解できるが、生産者、製造者は「安全で美味しい」とか、「安心で高品質」といったものづくり、日本ならではの真面目なものづくりを今まで以上に目指してほしい。たとえば、どんなに輸入肉、農産物が安くなっても、安全性の定かでないものは買いたくない。国内メーカー品の方が、品質もアフターサービスも保証されている。こんな理由で、ものを選ぶ人は多いはずだ。値段だけが消費者の判断基準ではない

 TPPがあろうがなかろうが、商品情報をよく知って賢く選べば、家中が輸入品だらけといったことにはならないと思うのだが。

アメリカ抜きでのTPPは意味があるのか?

 TPPが離脱表明をした後、アメリカを抜きにした11ヶ国、いわゆる「TPPイレブン」で進めようという動きがある。トランプ政権の中でもビジネスのキャリアをもつ人たちや議会主流派の一部の議員は、TPP参加のメリットを十分認識しているため、11ヶ国でTPP締結を進めておけば、将来的にアメリカが「やはり参加」と言いだした時の受け皿になるということも考えられるわけだ。事実、既にアメリカの競争相手であるオーストラリアやニュージーランド、カナダなどは、日本との自由貿易協定に動きだしており、アメリカより有利な取引を手にしようとしている。この状況を、果たしてアメリカ業界がいつまで指をくわえて見ていられるかが問題だ。

 いずれにしても、日本にとってはTPP参加が12ヶ国であっても11ヶ国でも、経済利益にさほど差が出るわけではないと言われている。11ヶ国でもスタートをきっておけば、貿易以外の部分でも市場アクセス数、投資保護に関する紛争処理等、包括的な取り決めが成されることとなり、TPPが今後の自由貿易協定のグローバルスタンダードになることは間違いない。日本にとって、その先鞭をつけることは大きな意味があるという意見は無視できないだろう。

 

トランプがTPP離脱を決めた背景

 さて、すったもんだで日本国内を大いに揺るがしたTPPだが、当の言い出しっぺのアメリカはトランプ政権に交代した途端に、「TPP撤退」の大統領令を出した。(アメリカは協定締結には至っていなかったのだから、「撤退」という言葉は正確ではないが)。

 そもそも、ドナルド・トランプは「TPPから撤退して国内雇用を取り戻し、国内産業をもう一度活性化させて、その利益をアメリカ国民に還元する」ことを公約として掲げ、選挙戦を勝ち抜いた。このトランプの公約に心底期待して、彼を支持したのが「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と言われる地帯の人々だ。

 イリノイインディアナ、ミシガン、オハイオペンシルバニア州を含むラストベルトは、かつて鉄鋼業や自動車産業を中心とする重工業、製造業で栄えたが、国際競争に勝てず産業は衰退。この地域の、特に白人の貧困層を覆う所得格差の現実は深刻だ。貧困ゆえにカレッジはおろか、高校にさえ行けない。薬物依存、暴力は日常茶飯事といったその実情、惨状は『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(J.D.ヴァンス著 小学館)に詳細に描かれている。

 「貧困は代々伝わる伝統だ」という著者の言葉が象徴するように、アメリカの所得格差の拡大は深刻で、今やアメリカの貧困層は4600万人に及び、「貧困予備軍」を入れると実に米国民の3分の1に達すると言われている。

 アメリカンドリームなど、文字どおり夢のまた夢となった今、トランプは「アメリカの経済は貿易自由化で徹底的に弱体化した。だからアメリカを守りもう一度強くするために、TPPから離脱する」ことを公約とし、大統領になってその言葉どおりにした、というわけだ。この公約がなければ、彼の当選はなかったのではないかと思わせるほどのアメリカ社会の現実がある。

日本の農業関係者はTPPに大反対

 メリット、デメリットが交錯する中、TPP参加への反対を最も強く訴えたのが、やはり農業従事者だ。安価な輸入食料が大量に出回るということは、農業が打撃をうけるということ以外に、農地が荒れて環境面でも影響が出てくることを意味する。山形のサクランボ、青森のリンゴなど、特産物が重要な収入源となっている地域も少なくない。外国産の農作物との競合は死活問題だろう。

 関税引き下げ、もしくは撤廃の経緯を品目別に見てみると、たとえば、キャベツやトマトほうれんそう、ブロッコリーといった野菜にかけられている3%の関税は、協定発効後すぐに撤廃の見通し。生の果物は「発効後すぐ」、「段階的に」の差はあれど、すべての品目で関税が撤廃される。日本が輸入している農林水産物産物の実に82%が関税撤廃の見通しなのだ。

 こうした輸入拡大による農業、畜産業者等への打撃は当然、従事者の廃業、撤退を生み、生産額の減少に直結する。事実、農林水産省はTPPに参加すると日本の食料自給率が40%から13%になると試算している。

TPPのメリット、デメリットとは?

 その後のいきさつをたどる前に、こんなにも難航するTPPのメリットとデメリットを整理してみた。

 

 まずメリットとして真っ先に挙げられるのは、関税の撤廃により輸入品が安くなるということ。特に、輸入農産物、食肉の値段はかなり安くなるだろう。同じく、関税の引き下げで貿易自由化が進み、日本製品の輸出が拡大するのもメリットの一つ。また、関税の壁をとりさってグローバル化を加速させることで、GDPの増加が期待できる。政府はGDPの2.6%増、約14兆円の拡大効果があると試算している。

 

 ただし、こうしたメリットと裏表の関係にあるのがデメリット。たとえば安い商品が海外から入ってくることで、デフレを引き起こす可能性が考えられる。安価な輸入農作物による、国内生産者のダメージも懸念されるし、また、日本とは異なる規制で生産、製造された輸入食品の安全性も大いに気になるところ。食品だけでなく、医療分野でも先進の医療制度が入ってくることで生じる、薬の価格や国民健康保険制度への影響も軽視できない。

 

 こうしてみるとメリット、デメリット半々といったところだ。そもそも、政府がGDP増加をアピールしたり、経済産業省がTPPに参加しないと雇用が81万人減ると試算しているのに対して、農林水産省は国内の農林水産物の生産額が年間最大2100億円、雇用もTPP参加により340万人減ると、全く逆方向の試算を出している。国内でもメリット、デメリット論争は並行線をたどっているのだ。

TPPとは何か?

 加計学園豊洲問題、イギリス保守党議席過半数割れにトランプのロシア疑惑など、今日も話題満載の新聞紙面で、TPP関連の記事は以前に比べてかなり減った。事態は多分あまり進んでいないというか膠着状態なのだろうと思いつつ、今のうちにTPP問題のおさらいを。

 TPP環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)は、日本、アメリカを中心とした環太平洋地域の国々(日本、アメリカ、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、オーストラリア、ニュージーランドブルネイ、マレーシア、シンガポールベトナムの12ヶ国)の経済の自由化を目的に作られた経済連携協定。平たくいえば、提携諸国間での関税を撤廃して、貿易の自由化を図り経済発展を促そうというのが目的で、最終的には日本の全貿易品目の95パーセントの関税が撤廃される予定だった。

 もともとは、2005年にシンガポールブルネイ・チリ・ニュージーランドの4ヶ国が署名して発効したが、2010年アメリカの参加表明によって拡大交渉が始まり、日本も2013年に参加表明、交渉参加を果たした。さまざまな国の思惑が交錯して交渉は一筋縄には進まず、難産の一途。「タフネゴシエーター」を自称しつつ、疲労困憊の表情を隠し通せなかった甘利明担当大臣(当時)の顔が思い出されるが、2015年10月米国アトランタでのTPP閣僚会議でようやく大筋合意し、2016年2月にはニュージーランドのオークランドで署名式が行われた、はずだったのだが…。