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トランプがTPP離脱を決めた背景

 さて、すったもんだで日本国内を大いに揺るがしたTPPだが、当の言い出しっぺのアメリカはトランプ政権に交代した途端に、「TPP撤退」の大統領令を出した。(アメリカは協定締結には至っていなかったのだから、「撤退」という言葉は正確ではないが)。

 そもそも、ドナルド・トランプは「TPPから撤退して国内雇用を取り戻し、国内産業をもう一度活性化させて、その利益をアメリカ国民に還元する」ことを公約として掲げ、選挙戦を勝ち抜いた。このトランプの公約に心底期待して、彼を支持したのが「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と言われる地帯の人々だ。

 イリノイインディアナ、ミシガン、オハイオペンシルバニア州を含むラストベルトは、かつて鉄鋼業や自動車産業を中心とする重工業、製造業で栄えたが、国際競争に勝てず産業は衰退。この地域の、特に白人の貧困層を覆う所得格差の現実は深刻だ。貧困ゆえにカレッジはおろか、高校にさえ行けない。薬物依存、暴力は日常茶飯事といったその実情、惨状は『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(J.D.ヴァンス著 小学館)に詳細に描かれている。

 「貧困は代々伝わる伝統だ」という著者の言葉が象徴するように、アメリカの所得格差の拡大は深刻で、今やアメリカの貧困層は4600万人に及び、「貧困予備軍」を入れると実に米国民の3分の1に達すると言われている。

 アメリカンドリームなど、文字どおり夢のまた夢となった今、トランプは「アメリカの経済は貿易自由化で徹底的に弱体化した。だからアメリカを守りもう一度強くするために、TPPから離脱する」ことを公約とし、大統領になってその言葉どおりにした、というわけだ。この公約がなければ、彼の当選はなかったのではないかと思わせるほどのアメリカ社会の現実がある。